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五日が経った。もうすぐ家につく頃である。不運なことに雨が降り、私は木に止まることを余儀なくされていた。
雨はすぐに止むだろう。そう思っているが止む気配はない。それどころか、思えば思うほど雨足が強くなっていく感じがしてしまう。
そしてそのまま一日が終わった。私は大事な一日を殆ど無駄にしてしまった。あと二日しかない。私が私である時間はあと僅かなのだ。
六日目になる。昨日嫌なほど降り続いていた雨は上がり、焼き付けるような日差しが射す。
近くの公園には子供達が集まって来ていた。夫々麦わら帽子を被り、虫取り網と虫かごを装備している。
私は彼らに捕獲されないよう、神経を研ぎ澄まし、家を目指す。驚いたことに蝉はものすごく耳がいいらしい。死角となる場所でも僅かな人の声を聞くことが出来る。
家の前に着いた。時刻はもう夕刻だった。家族はもう家の中にいるだろう。
庭に生えている背丈の低い木に止まり、窓から家の中を確認する。見えたのは子供部屋で、電気がついていない。まだ帰っていないのか、それとも向こう部屋のリビングで、テレビをつけながらゲームでもしているのだろうか?
私が名前を呼ぶように泣き声を上げる。勿論、その声に反応する訳がない。
そんな当たり前の事は解っているのだが、どうやら私は声を止める気がないらしい。これでは夏の風物詩の五月蝿い蝉である。
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