1、知らない街

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新しく建てた自宅は静かな住宅街にある。 いわゆる高級住宅街であるが、私には関係が無い。 新しく大学生としての人生を送る私の名前はユリコだ。 その前に使っていた名前はサキだった。 本当の名前は随分昔のことで覚えていない。 何せ千年も生きている。 覚えていないが、20歳を迎えるのは何回目だろうか。 私の存在は不安定で不確かだ。 私の魔法一つで、人々の記憶は改ざんされる。 「おはよう。もう大学生かい?大きくなったねぇ。」 近所のお婆さんも私が20年ここに住んでいると思い込んでいる。 「おはよう、お婆さん。」 私は必要最低限の人付き合いしかしないように心がけている。 なぜなら、人間は私よりよっぽど短命で、心の内は一瞬で変わっていくものだと知っているから。 悲しいという感情は随分昔に捨ててしまったし、私の生きている意義はわからなくなってしまった。 私も、もともと人間だったはずだ。 どういう理由で魔女になったのか覚えていない。 自分の親も兄弟の有無も、何処の国の人間だったかも覚えていない。 ただ、死ぬ理由と方法がわからないだけだ。
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