1、知らない街

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私がユリコとして大学に行こうと思った理由はひとつ。 その大学の図書のなかに私の事が書かれているものが有るらしいのだ。 それを確かめる。 「あぁ。人は荷物は自分で持つのだったか。」 外に出てみて、周りの人間が鞄を手に持っていることから、自分が宙に浮かせているこの鞄は「おかしい」のだと気づいた。 何しろこの百年ほど地下にこもりっぱなしだったのだ。人の暮らし方など変わっているし覚えていない。 授業は取らない。影が勝手に取ってくれるだろう。 私は図書館に向かう。 日本で最大の蔵書数を誇るその図書館の広さはすばらしい。 数百年前に死んだ魔法使いの図書も残っている。彼は変わり者で魔法を化学に変えて研究していた。 私とは違って生まれながらの魔法使いだ。私の師でもある。 「やぁ先生。また本で出会えるとは思っていなかったよ。」 そう呟いたとき、背後に気配がした。 「知り合いの本かい?」 バッと振り返ると長身の男が私を見下ろしていた。 「見たところ随分昔の本みたいだけど?」 彼は興味だけで聞いているような顔をした。 この手の人間は悪意のあるやつよりしつこくて面倒だ。 「私のかってでしょう?どいて。」 すると彼は「ごめん」と慌てたように呟いてよけた。 「ごめんね。俺はこの図書館目当てでこの大学に入学したただの大学生だよ。」 はてしなく胡散臭い。 理由が私と同じということも苛立ちを助長した。
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