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 それはなかなかある事では無いのでは無いだろうか? どちらも一生の内に一度、あるかないかの経験だろう。現に私は二〇年間生きてきて、一度もそんな経験は無い。それが一年どころか、三ヶ月という短い期間に立て続けに経験するとは。  しかし、すぐに、殺人の被害者になったら一生はそれまでだ、と言うことに気がつき、苦笑いを浮かべてしまう。 「まあ、そうなるね。かなりまれなケースだから、こちらとしても驚いたよ」  大野刑事は私の内心を知ってか知らずか、そう言って肯定すると、 「ですから、この事件、皆さんにまったく関わりが無いとは言えないわけです」そう言って、店長に視線を向けた。 「ええ? 何でですか?」  まるで、松井が殺された原因の一端が私たちにあるとでも言いたげな台詞に、私が思わず声を挙げると、大野刑事は困ったような笑みを浮かべ、 「言い方が悪かったね。皆さんも興味があるんじゃ無いかと思ったんだ」と言い直した。  つまり、最初から、松井が被害者である事を話すつもりだったのでは無いか、しかし、それを部外者である私たちに打ち明けるのは職業倫理上問題がある、だからあんな小芝居をしたのだろう。しかし、こんな事をして二人は大丈夫なのだろうか? と、いらない心配をしてしまった。  そんな私の心配もどこ吹く風と、大野刑事は事件の概要を説明し始める。
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