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 夏の強い日差しが、片桐淳弘の露出した両腕を焼いている。彼は自らのじゃんけんの弱さが恨めしかった。何を好きこのんで、あの、松井光勇の家まで、しかもこの暑い中を行かなければならないのかと。  事の発端は、今日発表を予定しているゼミの発表資料が遅れていた事による。特に松井がするべき作業だけが大きく遅れていたため、彼はこの土日、そして、祝日だった月曜日を使って仕上げてくるという約束になっていた。  その松井が午後一時からのゼミに姿を見せなかったのだ。 「間に合わなくて、逃げたんじゃ無いか?」  同じゼミ生の淡路清司が冗談ともつかない表情でつぶやく。片桐も内心、その可能性はあり得るんじゃ無いか、などと思ったりもしていたが、とりあえずは口をつぐんでいた。  他のゼミ生も大同小異その様に思っているらしいことが、彼らの表情から察せられる。
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