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「ええ? 私やだ。あいつ嫌いだし、声も聞きたくない」  花田彩花が唇をとがらせる。かわいいと表現するのがぴったりなその容姿に似合わぬ毒舌が彼女の特徴だった。その見た目にだまされ、彼女の言葉に泣かされた男は数知れない。 「そう言うなよ、俺だって嫌なんだ」  淡路がそう言ってむき出しの彼女の肩に手を乗せた。  そんな様子を、大島太輝が不満そうに眺めている。彼は花田に片思いをしているのでは無いか、と以前から片桐は思っていたが、大島のその表情で、その想像は確信に変わる。この暑いのに長袖を着た大島は、その上着の胸ポケットから携帯を取りだし、僕が電話をしようか? と提案した。 「まあ、待て、こういうときはじゃんけんだろう?」  淡路が大島の動きを手で制して、そんな提案をする。携帯番号は、同じゼミ生になった時、何か起こった時のために全員で交換していたので皆が知っているのだ。 「ええ? いいじゃん、大島君に掛けてもらえば」  花田が淡路の手を払い、これ幸いと大島の提案に飛びつく。
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