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 松井のアパートは今にも壊れそうな安普請だったが、その分家賃が安く、また、バイクなどを使えば大学までそれほど時間が掛からない事から学生に人気があり、部屋はすべて埋まっていた。  駐輪場を見ると、松井のバイクが停まっている。ということは、まだ部屋の中にいるのか。片桐は松井の部屋の前に移動すると、インターホンを押す。しかし、何の反応も無い。もしかして、電池が切れているのだろうか? そういえば、音が聞こえなかった様な気がする。片桐は、扉をノックした。しかし、何度たたき、中に呼びかけても何の反応も無い。どうした物かと思案していると、 「どうしました?」と、背後から声を掛けられた。  振り向くと、そこには警察の制服を着た加藤巡査が立っていた。そのことに慌てた片桐は、 「ここには知り合いが住んでいるんです」などと、言い訳めいた台詞を吐く。 「最近、このあたりで空き巣が増えているのですよ」  加藤巡査はそう言うと、片桐をねめつける。怪しまれている? そう思った片桐は、 「おい、松井! 出てこい」と、半ば助けを求めるような心持ちで中に呼びかけた。
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