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 硫酸、中学の理科で危険だとは習ったが、まさかこんなところで名前を聞くとは思わなかった。 「では、歯形はどうなんですか?」 「今、問い合わせ中です。昨日の今日ですからね、まだ司法解剖中ですよ」  なるほど、そういう物か、と私は内心で頷く。ドラマやなんかだと、即座に結果が出ているものだが、現実はそんなに簡単では無いらしい。 「あれ? でも、さっき死後三日経っているって言っていませんでしたか? 司法解剖がまだなのに、分かる物なんですか?」 「こんな仕事をしているとね、ある程度は分かるんですよ」  石榴刑事はそう言うと、良いか悪いかは分かりませんけどね、と自嘲気味に首を振る。そして、 「先ほどマスターは、誰も死体に触っていないのかと聞かれましたが、松井は、まだ未確定ですから、仮に松井としますが、一目見て死んでいる、そして、現場には巡査が居合わせた、そのような状況ですから、誰も死体に触れていないと断言できたわけです。現場保存の観点から、加藤巡査が気を利かせたわけです」と続けた。
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