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 私は再びその疑問を口にする。当然の疑問だとは思うが、もちろん、誰も応えることはできない。ただ店長が、 「どうしてだろうねえ」と、心なしかにこやかな表情でつぶやいた。 「やっぱり、松井が犯人なんじゃ無いですか?」  結局、その結論に戻ってきてしまう。よく考えると、根拠も無く他人を犯人呼ばわりしているわけで、とても軽率な発言ではあるが、そうは言っても松井は知らない人である。どこか現実とは違う世界での話の様に思え、無責任な言動になるのも仕方が無い、と慌てて自分に言い訳をした。 「いや、被害者の左腕に腕時計が付けられていた以上、被害者はやっぱり松井ですよ」  そこで、口をしめらそうとでもしたのか、店長はカップを手にする。しかし、すでにからな事に気がつき、席を立とうとした。私は店長を押しとどめ、彼の代わりに紅茶の準備をするため、店の奥に向かった。もちろん、会話の続きは気になったが、店長がお茶を入れに行くと時間が掛かる。こだわりがすごいのだ。私なら、さっさと準備をして戻ることができる。いくら何でも、私抜きで話を進めたりはしないだろう。たぶん。
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