14/16
前へ
/265ページ
次へ
「なぜって、それは被害者を誤認させるために」  大野刑事が慎重に応える。 「刑事の皆さんは誤認しましたか? 歯形は本人の物と断定された、もし誤認させたいのなら、そこにも何らかの対策を講じたはずでしょう? 今や、歯形の確認は一般常識と言っても過言では無い。そしてそもそも、硫酸で松井の顔を焼いたのは予定外の行動です」  先ほどの、犯人は事前に硫酸を準備していなかった、という店長の言葉が思い出される。 「では、なぜ顔と指を焼いたのか、それは、犯人にとっては想定外な、それでもやらなければいけない理由ができたからに違いありません。それは何か?」  店長はここでいったん言葉を切ると、カップを手に取り、口元に運ぶ。 「いったいなんです?」  石榴刑事がそんな店長の態度にじらされたように先を促す。 「それは、犯人が被害者に引っ掻かれたからですよ」  店長はカップを手に持ったまま応えた。
/265ページ

最初のコメントを投稿しよう!

465人が本棚に入れています
本棚に追加