むかち貴金属店の涙

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 彼女が初めて店に来たのはそんな時だった。彼女は前触れも無くやってきた、とは言っても、お客さんなんて、前触れも無く来る物だけど。  彼女は最近めっきり涼しくなってきているにもかかわらず、日傘を差していた。白いブラウスから覗く、そのブラウスにも負けない白い二の腕もまぶしく、彼女が日焼けとは無縁の生活を送っていることは一目瞭然だった。そして何より、その整った顔立ちと、古い言い方でトランジスターグラマーとでも表現したいような見事なプロポーションに、彼女がまるで銀幕スターででも有るかのような印象を受け、私の視線は彼女に釘付けになってしまった。  そんな彼女が、うちの店を見上げ、「うわあ」と、感嘆にも似た声を挙げる。彼女の気持ちは理解できた。今のご時世にこんな時代錯誤の店があったんだ、という驚きだろう。それを証明するように、彼女は私にも興味の視線を向けてきていた。
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