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私はその時、普段にあらず割烹着を着ていた。それもかなり古い型の物だ。店にそれしか無かったのだから仕方が無い。掃き掃除をするのに都合が良いと着たこの服は、彼女にとってさらに大正を彷彿とさせたに違いない。
「すごーい」
ついに彼女の口からそんな声が出る。彼女に見とれるように箒を持って呆然と立っていた私は、その言葉に我を取り戻し、それと同時に、自らの姿が恥ずかしく思えてしまった。しかし、今更逃げるわけにも行かず、ただ会釈をしてやり過ごそうとした。
「ここ、とても良い雰囲気ですね」
彼女は私に話しかけてくる。
「そうですか? ありがとうございます」
私はおざなりにならないように気をつけながら返事をする。
「なんだか、大正から抜け出してきたみたい」
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