むかち貴金属店の涙

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「それで、足助のお嬢様が、僕にどんな用事でしょう?」  店長も足助のお嬢さんの噂、その中には、気むずかしい、わがまま、といったあまりよくない物も含まれている、は耳にしていたのだろう。落ち着くためか、眼鏡をかけ直して尋ねる。 「はい、わたくしの描く絵のモデルになっていただけませんか? いえ、あなた様だけでは無くあなたも(と私に視線を向ける)この店も、描いてみたい、このどれもがわたくしの琴線に触れたのです」 「ははあ、そういうことですか」  店長は気を取り直そうとでもするように蝶ネクタイをいじり、そんな言葉を吐く。 「すぐにとは言いません」
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