むかち貴金属店の涙

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 数日後、いつものように数人の来客があった後、落ち着いたタイミングを見計らって店長に尋ねてみた。 「電話しないんですか?」 「電話? どこに?」 「足助手毬さんです」  私の言葉に、店長はあまり気乗りしない様子で、ああ、とだけ応えた。 「嫌なんですか?」 「嫌と言うよりも、よく分からないんだよ。あの足助のお嬢さんが、どうしてこの店にそんなに興味を持ったのかを。そりゃあ、多少は古めかしいからね、興味を惹かれるのは分からないでも無い。でも、それだけで絵のモデルにしたいと思うのかな? 何か裏でもあるんじゃ無いかと思ってね」  多少などという謙虚な表現に私は吹き出しそうになるのを必死で押さえながら、 「裏というと?」と、尋ねた。
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