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「どなたが来ないのですか?」  店の扉が開くと同時に、そんな声が聞こえてくる。私と店長は思わず飛び上がった。 「い、いらっしゃいませ」  私は多少声を上擦らせて出迎えの言葉を口にした。 「いやあ、ようこそいらっしゃいました」  店長も、こちらは意外と落ち着いた態度で出迎える。 「すみません、少し遅れてしまいましたね」  彼女は店の時計に目を向け、そんな言葉を口にする。 「家を出るのに少し手間取ってしまって。今日、婚約者が来ることを忘れていたものですから」 「婚約者? あなたのですか?」 「ええ。一時に来る約束になっていたのですが、すっぽかす事になってしまい、お母様にお小言を喰らっていました。まあ、無視しましたけど」  手毬はそう言うと、ふふふ、と笑う。その笑い方は上品で、私とは育ちが違うのだと強く感じさせた。
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