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「あなたには箒を持っていただきたいのです。ええ。掃除をしているような体勢で、向智様は店の入り口に立っていただいて」  手毬は色々と細かい注文を私たちに出す。そして、ついに場所が決まったのか、その体勢でお願いしますね、と手を合わせた。 「あなたは先に帰っておいて。家には自分で帰りますから」  彼女は運転手にそう告げると、彼は少し困ったような表情を浮かべたが、それでも指示には逆らえないのか、一度だけ礼をして、離れていく。  手毬はそんな男性などいないかのようにそちらには目もくれず、インスタントカメラを取り出すと私たちに向けてシャッターを切る。そして、写真と私たちを見比べ納得したのか鉛筆で下書きを始めた。  商店街はまあまあの人通りだった。その中でモデルになるというのはとても恥ずかしかったが、手毬が事前に手回しでもしていたのか、私たちに注意を払う人はほとんどいなかった。そして手毬は絵に対してとても真摯だった。集中して絵を描き続ける。その姿は、それまで私が彼女に抱いていた印象とは大きく違っていて、とても意外に見えた。
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