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「もちろん、一ヶ月間毎日なんてことは言いませんし、お忙しいようなら遠慮しますから」
手毬はそう言って配慮する気配を見せたが、元々この店には忙しい時なんて無いのだ。断る理由なんて作りようが無い。店長は、分かりました、と頷くことしかできなかった。
「ところで、その絵はどうするのですか?」
手毬の小脇に抱えられたキャンバスを指さし、店長が尋ねる。
「持って帰りますよ」
彼女はそう言うが、それほど身体の大きくない彼女にそのF五号サイズのキャンバスは心なしか大きく持ち運びにくそうで、少し心配になってしまう。
「ここで描くというのでしたら、店に置いていてもらっても結構ですよ」
店長がそう提案すると、手毬はぱっと顔を輝かせ、
「ありがとうございます。助かります」
と、頭を下げる。彼女自身も持って帰るのは大変だと思っていたのだろう。しかし、置いていてくださいと言い出せないあたり、彼女が高慢なお嬢様では無い事を示していて、私は噂で聞いていた彼女と、現実との違いにある大きな違いを見せつけられた気がした。それとも、それは相手が店長だからなのだろうか? そう考えると、心がざわつくような、そんな不思議な感覚がわき上がってくるのを感じる。
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