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「三十キロの道のりを歩くとなると、二時間や三時間では足りないでしょう。マラソンの選手ですら、四二・一九五キロを走るのに二時間前後かかるのですから。松井が四時に現場を出発したとしても、八時にバイクに乗って学校に着くのはどう考えても無理があります。また、被害者のマンションからの最寄り駅である尾羽東駅は五時四十分に始発電車が出ます。たとえその電車に乗ったとしても、松井のマンションに着くのは午前六時半になります。そこから換えの眼鏡を持ってバイクを置いたと思われる尾羽東駅に戻るにはいくら急いでも七時には成るでしょう。そこからバイクに乗って学校に向かった場合、八時半を過ぎるのは確実です」  話を聞いていた私は、どうもできすぎているような気がして仕方が無かった。どこかに作為があるような、そのような気がしてならない。しかし、何か根拠があるのかと言われると何の根拠も無い、ただの感覚的な問題だった。そのため、口をつぐんだまま、成り行きを見守る。しかし店長は、 「どうもできすぎていますね」  とつぶやいた。私は心の中で何度も首肯する。刑事達二人も内心はそう思っているのだろう。その言葉に対して何かを言おうとはしなかった。
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