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あれは誰?
雨にさらされながら、僕と話そうと何時までも待つあの男は…
ハァー…
自然と溜め息が出た。
テレビを消し、玄関に向かう。
物入れから、傘を取り出して、外へ出た。
心の中で別の自分が囁く。
(関わるな、同情を引きたいだけだ、あんな奴無視してしまえ)
だけどーー
このままじゃ帰りそうもないのも事実だ。
僕は雨の中、傘をさしてゆっくりアパートの入り口を目指した。
「立花…」
僕が近づくと、藤田雅人は口を開いた。
「勘違いしないで欲しい。僕は話しに来たんじゃない」
そう言って傘を差し出した。
「これを持って帰りなよ。風邪を引いて僕のせいにされたら迷惑だ…」
彼は傘を受け取らなかった。
「帰るってどこへだよ」
「東京だよ。君は此処にいるべきじゃない」
「帰れねーよ。異動願い出した。アパートも引き払ったし、週明けからオレも浜松勤務だ」
「なっ……」
所長が言っていた、本社から入れ替わりの営業って…
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