362人が本棚に入れています
本棚に追加
民間アパートを社宅にしている僕の部屋は、営業所と海岸の中間に建っている。
海には歩ける程近くはないが、窓を開けておくと、時折風に乗って潮の香りがした。
離れてみると、僕が愛した尾崎さんは、青い空に浮かぶ雲のように遠く掴めない存在になってしまった。
初めてこのアパートに来た日、僕は海に行った。
そのどこまでも蒼い広大さと、波の音に傷つき疲れた心を癒やしたくて…
そばに居られなくたって、コミュニケーションの方法はいくらでもある。
だけど、心の中にできてしまった距離までは縮まらないのだった。
☆★☆
三度目の週末が来た。
前日からの曇り空は、やがて雨に変わるだろう。
深夜、尾崎さんと遅くまで話した。
パソコンの画面の向こうから
『…やはりお前が居ないと寂しいな、立花…』
リアルな尾崎さんの声。
「僕もです…」
何度も後悔した。
やはり付いていけば良かったと…
でも、僕の本当の気持ちは隠しておかなくちゃ…
最初のコメントを投稿しよう!