【14】ガソリンスタンドと金物店

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いつもと変わらない朝の渋滞。 スタンドを見ながらふと思う。 そういや… 最近あのおじさん見ないな… 梅雨に入ってしとしと降る雨は、 誰もいないスタンドをより静寂に包んでいた。 毎朝通る道だが、 そうタイミングよくおじさんが出てくるわけではないので、あまり気にはとめなかった。   でもこのときなんとなく感じていた予感。 それは数日後には現実へと変わった。 いつのように、長い渋滞からようやく交差点付近まで来たとき。 ガソリンスタンドに目をやると 昨日までなかったチェーンがスタンドの周りを囲っていた…。 そして、ひとつだけの給油機に 立て掛けられていたのは 赤い文字の『売地』のプレート。 …やっぱり… もう何年もこの道を通って 職場へと通っているが、自分がここを通るときにガソリンを入れるお客を見ることはほとんどなかった。 でも、自分が通る時間なんて ほんのわずかな一瞬で。 昼間なんかはそれなりに客もいるのだろうと。 そう思っていた。 向かい側の金物屋の裏にあるおじさんの家を見つめながら思う。 もう、あのおじさんがここで 水をまくことはないんだと。 おじさんはよく赤いポロシャツを着ていた。 客を見たことはなかったが、 店の主人らしくいつもきちんとした身なりをしていたのを思い出す。
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