【18】やのけん?!

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 もうどうでもいいから、車から早く降りてほしかった。  とっくに限界を超えていた。  体は疲れ切っている。     彼のしつこい言葉はマインドコントロールというより、どちらかと言えば洗脳であると言えよう。  隔離に近いこの狭い空間の中で、精神的圧迫を与えられると、相手に従うことが正しい選択肢としか思えないようになってくる。  番号を交換した彼は、満足げな顔で車から降りた。  そして自分の車に乗り込むと、一回クラクションを鳴らしてさっそうとその場からいなくなった…。    ──やっと終わった  帰らないと。  なのに、体は放心状態ですぐに動けなかった。    しばらくそのまま目を閉じた。  コンビニからの出来事を振り返る。  彼は困っていた。  助けを求めていた。  だから私は助けようと思った。    でもどうだろう。  彼が一台の車で─と、言ったとき。  私も心底困った。  心底困ったわけである。  それは確かに態度にも表れていた筈。  でも彼は『自分は怪しいものではない』と言い、私の不安よりも自分の欲を貫き通したわけである。  彼は確かに『悪い人』ではなかった。  でもそれはあくまでも結果論である。  結果的にそうであったとしても、この結果に至るまでの過程の中に私が不安と只ならぬ恐怖を抱いたことは紛れもない事実なのだ。    それを彼は分かっているのだろうか。    
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