【18】やのけん?!

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 『なくて七癖』などと言うように、誰でもいくつかのクセを持っている。  クセは特定の行動が習慣化したもので、本人はとくに意識していない場合が多い。  ほとんどの場合は取り立てて問題にするようなものではないが、極端な場合は周囲に不快な印象を与えたりすることもある。  何らかの欲求を満たそうとする気持ちが、クセという無意識の行動に現れるのだ。  彼が幾度となく見せたあの今にも泣き出しそうな表情。    おそらく無意識だろう。  目の前の女性を心底困らせてまで自分の欲を満たそうとする深層心理があの表情に現れている。  欲が深いことは決して悪いことではないが、自分の利得を考える利己的な欲だけではなく、他者のことを考える利他的な欲というのもあるはず。  どこまでも利己的な欲にこだわってしまうとそれは単なる強欲になってしまう。  欲は人間の行動を支える原動力でもあるが、欲の持ち方にバランスをもつべきである。    現に、彼はコンビニでこう言った。  私が試合はいつあるのか?と訊いたとき。  『今月末です』と。  今月末──  まだ十分時間はあるじゃないか。  ここまで誰かに頼らざるを得ない状況に陥ってしまったのであれば、後日、週末などを利用して昼間の明るい時間帯に再チャレンジすることだってできただろうし、ましてやそこまでして息子のサッカーを応援したいのであれば、自分でたどり着く努力をするべきなのだ。    あれだけの執念があるのだからその活力を別の形で発揮すればよいのに─
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