【19】追われる男

11/24
前へ
/212ページ
次へ
   翌日の昼休み。  消灯されて薄暗くなった事務所に外線の電話が鳴り響く。  たまたま近くにいた私がその電話を受けると、それはある顧客からで足立さん宛にだった。  昼休み時間ではあったけれど、お得意先ということもあって営業事務所に内線を回す。  しかし、足立さんは事務所にはいないと言う。  他の営業社員に尋ねてみても誰も彼の昼休みの行動を知らないと言うのだから驚いた。  食堂にいるのか、はたまた外に食事に行ったか。  とりあえず急いで食堂を覗きに行ってみたものの彼の姿は見あたらなかった。  やっぱ外なのかな…。  結局、社内放送をかけても彼が外線を取ることはなかったため、戻り次第こちらからかけ直しますと相手先に伝え電話を切った。  食事を済ませたあと、近くを通りかかったひとりの営業社員に足立さんのことを訊いてみた。 「いつもどこでお昼食べてるんですかね?」 「知らねえ。あいつ誰とも一緒に食べないし、昼休みになったらいつの間にかいないよ」  そうなんだ…。  他の社員との馴れ合いは嫌いなタイプなんだろうか。 「事務所にいるときもさあ、常に電話で客にアポ取りまくってて。なんかすっげー必死よ」 「へえ…仕事熱心なんですね」 「ぶっ!まあそう言われればそうなんだろうけど。期待されてるヤツはやっぱ違うんじゃない?」  最後は皮肉とも取れる言葉を残して去って行った。
/212ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加