【19】追われる男

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     逃げます、って……。  仕事が嫌になったのだろうか、それとも逃げなければならない他の理由があるのか…。  その一言だけでは謎が多すぎて不可解極まりない。  「会社辞めちゃうんですかね?」  「分かんない。課長たちがみんなして足立さんの携帯に電話かけてるみたいだけど電源が切られてて繋がらないって」  「そうなんだ…」    管理職の人たちは困った様子で、なおも相談を続けている。  彼らが心配しているのは、会社が受けるダメージ云々よりも一言だけ残して携帯電話さえ繋がらなくなってしまった彼が今無事でいるのか、あらぬ方向へ自分を追い込んだりはしていないだろうか、ということだ。  それが伺い知れるのは、時折会議室から漏れてくる言葉の中に『警察』という二文字が聞こえてくるからだ。  現在彼の心中がどのような状態であるかは分からないが、どんな事情があったとしても、立派な大人がこのような形で逃げ出すことが周りにどれほどの影響を与えるものか分かった上での行動であるとするならば…。  それこそ今まで見てきた彼の姿というのは、何処までが本当で何処までが造り上げられたものだったのだろう。  
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