【19】追われる男

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     「いいから早く代われ」  「……。少々お待ちください」    いない相手と代われるわけはないのにひとまず保留ボタンを押して受話器を置いてしまった。  完全にフリーズしてしまった私に先輩が心配そうに声をかける。  「どうしたの?」  「足立さんと代われって」  「誰から?」  誰から──  「取り立て屋…ですかね」  「は?」    先輩は口をあんぐり開けたまま私以上にフリーズしてしまった。    彼の『逃げます』は、どうやら仕事からではなく取り立て屋からだったようだ。  しかし、今はそんなことより保留状態の電話をどうにかしなければならない。  会議室のドアをノックし、電話のことを管理職メンバーに伝えると思わぬ反応に愕然とする。  人の『素』が出る瞬間というのはこういう時なのだろうか。  「いっ…いないと言って切りなさい」  部長が驚いた様子で顔をひきつらせた。  「言ったんですけど信じてない感じで…代わりに誰か─」  「もう一回言って切りなさいっ」  誰も代わりに出る気はないのがはっきりと見てとれた。日頃は困ったことがあるとすぐに対応してくれる尊敬する上司でさえ、私と目を合わせようとはしないのだ。
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