【19】追われる男

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 結局、突然の訪問者にお茶は出さなかった。(皆、無理の一点張り故)  完全に『ぼっち』にさせてしまった部長には少し申し訳なくも思ったが、意外にも彼らは十分程度で応接室から出てきた。    案外早くてよかったぁ…。  対応した部長の顔からも安堵の表情がうかがえる。  おとなしく去っていく三人のうしろ姿を見納めると、今まで張り詰めていた事務所の空気は一気に緊張感から解き放たれた。  短い時間で済んだのは、おそらく明朝に足立さん本人から電話があったことや、部長自らの携帯電話の発信履歴などを見せ、彼と本当に連絡がとれていないということを証明しなんとか納得してもらったのだろう。  いっぽう、足立さんはと言うと。  その後連絡がとれることは二度となかった。しかし、後日彼について分かったことがある。  彼は七十歳を過ぎる年老いた父親とふたり暮らしをしていたようなのだが、その父親の話によれば─  給料はほとんどギャンブルで使い果たし、いくつもの消費者金融からお金を借りては常日頃から返済に追われていたということ。  職歴が何度も変わっていたが、ほとんどがやはり営業職であった。  つかまらないように外回りの多い仕事でなければならなかった、ということなのだろうか…。  別の営業社員が言った『アポを取るのに必死』という言葉がそれを裏付けているようにも感じる。
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