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ただ、別に営業マンでなくても日雇いの仕事であったり、明るい時間帯を避けて夜の仕事に就くなどすれば、もっと楽に追っ手の目を眩ますことができた筈だ。
しかし、彼がそうしなかったのは彼の中に存在する『プライド』がそうさせていたのかもしれない。
彼は実際、仕事に関してはとても丁寧だった。身なりも人一倍きちんとしていたし、客先からの評判も上々だった。
単純な話かもしれないが、人は褒められると誰だって嬉しいものだ。
上司や周りから期待されるということは時にはプレッシャーにもなるが、やはり自尊心が高まり、自分にも期待を持つようになるし、そして期待通りの自分に近づけようとする自己成就という心理が働く。
だからこそ、自分の立場や置かれた状況を分かっていながらも、どこかで自分は真っ当な人生を歩んでいるかのように、願望や空想を現実と混同させた生き方しかできなかったのかもしれない。
彼は今、どこにいるのだろうか。
会社は彼を自己退職扱いとして処理し、デスクに残された荷物はあっという間に片づけられてしまった。
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