【20】あご八

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   「ちょっとなにしてんの?」  友人の弓子が怪訝な顔をしながら自分のとんかつを口に頬張った。  「ああ、いや」  大きな口を開けて豪快に食べる弓子の様子をしばし観察しながら、ゴクンっとそれを飲み込んだのを確認してから尋ねた。  「美味しい?」  「うん、うまいよ」  「そうなんだ」  「つーか、タレがいいのよ、タレが」  タレ?……     あ、忘れてた。  とんかつにかけるタレはお弁当とは別に小さなプラ容器に入れてあり、上からラップをかけて輪ゴムで固定してある。  なみなみに入ったタレがこぼれないように慎重にラップをはずして少し寂しげなとんかつに装飾する。  とんかつと言えば─    王道はソースなのだろうが、これは茶色くとろみがあって見た目は和風ドレッシングのような感じだ。     おそらく手作りなんだろう。  何かの具材が時間をかけて溶け込んだようなタレからは食欲をそそるいい匂いがする。
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