【20】あご八

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「いただきます」 さあ今度は味の検証だ。 迫力に欠けるこのとんかつ弁当が売れる謎を今日は絶対に解き明かしてやる。 十年以上前から知ってる店だが、何屋かも分からないほど古い建物は大抵の人がスルーしていく。 お昼時にはパラパラと客が入るところを見たことがあるが、その時間を外れればほとんど客を見ない。 なぜ潰れないのか不思議で仕方ない。 きっとそれなりの理由がある筈。 弓子が買ってきてくれたおかけで、今回初めて私も『あご八』のとんかつ弁当を口にする。 よし…いざ。 パクっ!! ひと切れを千切りのキャベツとともに口に放り込んだ。 …ん? なんだこれ。 …うまい! めちゃくちゃうまいじゃないか。 他に形容する言葉が見つからない。 『つーか、タレがいいのよ、タレが』 弓子の言った言葉を一瞬思い出して思わずグフッ!と吹いてしまった。 「やだ。なにやってんのよ、もう」 「ご…ごめっ」 慌てて胸につかえたとんかつをお茶で流し込む。 確かに、これはタレがいい。 今まで味わったことのないなんとも言えない不思議な味だ。最初の印象通り、和風ドレッシングに近いがもっと深みがあって広がりがある。 食べた瞬間白いご飯をすぐ口に入れたくなるようなうま味が、口の中で無造作に広がっていく。 鼻に抜ける風味はにんにくだな。 うん。 間違いなくこのタレが商品としての価値をあげている。
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