【20】あご八

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T字路のつきあたりにお目当て店が見えてきた。 やっぱり「絶対若い女の子なら入らないような店だよなぁ」と独り言が出てしまうほどの外観である。 でもそんな店に自分は向かっているのだと思うと笑いが出てくる。 もちろん私はもう若い女性の部類には入らないのだけれど…。 せっかくの休みなのだから、ひとりでお洒落な店でランチでもすればいいものを。 客観的に見たときに友達や家族が私のことを変わり者扱いする理由が分からないでもないな、と思ったが今に始まったことではないのでまあそんなことはあまり気にはしない。 駐車場に車を停めた。 私以外一台も車が止まっていないが、『営業中』の看板は出ているので開いてはいるのだろう。 車から降りようとしたとき、ちょうど店からひとりの男性が出てきた。 弁当の入った白いビニール袋を手に提げた男性は何故かニコニコ笑っていた。 そのすぐあとに主婦っぽい四十代くらいの女性が出てきた。 そして彼女も何故か笑っている。 どういうことなんだ? 車はないが客はいる…。 そしてなにがそんなに楽しんだろ。 そんな様子に不思議に思いながらドアを開けて店の中に入る。 予想していたよりも店内は狭くかなり殺伐とした雰囲気だったが、それよりもさっきの客以外にも他に客がいたことに驚いた。
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