【20】あご八

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「また来ますね」 自然とそんな言葉が出た。 おばあちゃんは嬉しそうに笑って、 「ありがとね、また来てください」 小さな体を丸くし頭をさげる。 なんとなく再度店内を見渡してから、店を出た。 ドアを閉める瞬間にもう一度振り返って見ると、その隙間からはやっぱりいつまでも深く頭を下げているおばあちゃんの姿が見えて。 思わず『ははっ』と笑いが出る。 なんとなくすべての謎が解けたような気がした。 周りに新しい店が建っても潰れない理由も。 『自然と足が向いたのよ』と言った弓子の言葉も。 店に入る前に出てきた客が笑っていたのも。 カツが薄いのは....... どうでもいいか。 『人が人を繋ぎ止める』 此処はそんな場所だった。 さあ。 どこで食べようか。 今日は天気もいい。 錆びれた『あご八』の看板の上には高く昇った太陽が見える。 その眩しさに片目を瞑る。 外で食べるのも悪くないな。 袋を顔の高さまで持ち上げてすーっと匂いを吸い込んだ。 うん。 揚げたてのとんかつと、秘伝のタレのいい匂い。 もうお腹がペコペコだ。 f i n
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