【10】小さな絆

10/12

44人が本棚に入れています
本棚に追加
/212ページ
彼らには、父親も母親もいる。 私はどちらもあまり知らない。 お父さんに限っては一度も見たことがない。お母さんも、目にしたのは、一度か二度程度。 保育参観や、運動会にも顔を出されることがないため顔さえ浮かばない。 ー ネグレスト ー つまり、育児放棄。 誰かがそう言っていた。 朝は早く、帰りはほとんどお迎えに行くことができない私は、あまり保護者の方と話す機会が少なくて、このことを知ったのは、ほんの一年くらい前。 最初はただの噂にすぎないんじゃないかって。 そう、思っていた。 しかし、今年の役員決めのときに、来てない親が役員になるべきだとか、ちょっとしたいざこざが起きたとき、園長先生自ら、彼らの両親のことを聞かされて、それが単なる噂ではなかったんだということが分かった。 正直、テレビやドラマでそういう家庭を見たことがあっても、自分の身近なところではありえないような、そんな気がしていた。 だから、それを知ってからは彼らを見る度に、どんな思いで過ごしているのだろうか。ちゃんとご飯は食べているのだろうか。 そう思わずにはいられない。 彼らの真意や本意は分からないけど、 ちょっとした瞬間に見せる笑顔に多少救われるのだ。  
/212ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加