【11】虎太郎と謎のおじさん

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ー思わぬ形でストーカー事件は終息を迎えるー 翌日。 もちろん、 行かなかった。 でも、会社についてもずっと落ち着かなくてソワソワして。 きっと今日は休んでるはずの柴田さん。 仕事の件で、彼の部署に電話をする。 もし行ってなくて、彼が電話に出たらどうしよう。 緊張と不安で押しつぶされそうだった。 電話に出たのは、柴田さんではなかった。 よかったぁー。 少しほっとしながらも、電話の先の相手に恐る恐る聞いてみた。 「…今日、柴田さんお休みですかね?」 「え?柴田さんならいるよ」 ビクッ!! い、いるの? 行かなかったんだ? そりゃ、私は行かないって言ったからね。 「あ、彼部署異動になったから。」 は? 「詳しいことは話せないけど、製造現場に移動になったから、今日から担当変わりますから。急ですみませんね。」 「えっ?やっ…そ、そうなんですか? わ、分かりました…」 異動……… 製造現場なら、もう連絡取らなくてもいい…… ははっ。 渇いた笑みがこぼれる。 よかったぁ… でも、仕事上でのやりとりはなくなったけど、きっと携帯にはまたメールが来るんだろうなと思っていたが、 驚いたことに、それさえもパタッとなくなったのだ。 それでもしばらくは、メールがくるたびに彼からじゃないかとビクビクしていたが、もう二度と来ることはなかった。 あとから、聞いた話。 彼は既婚者で奥さんがいたのだ。 しかし、病気で倒れられて、もう何年もひとりで介護をしていたようだ。 二人の間に子供はいない。 話し相手がほしかったのだろうか。 どこかに心の拠り所を探していたのだろうか。 人の弱さは時として、その人の人格さえ変え、歪んだ方向へと導くこともある。 彼の行動は、正しいとは言えないが、周りに話を聞いてくれるような人がいれば少しは違ったのかもしれない。 今だから思えること。 私は最初の頃の、明るく気さくで優しかった柴田さんが本当の彼であると信じたい。 おわり
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