【13】阿部くん

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彼と一緒になってみんなが踊り出した。 会場は大いに沸いて曲が終わる最後まで 賑やかなステージは続いたのだった。 宴もたけなわとなり、最後は製造部長による一本締めでお開きとなった。 お酒で気分のいい社員たちは仲の良いもの同士や、オジ様グループなどに自然と別れ、それぞれが二次会へと散らばりだした。 「イノさんも、次行こうよ!」 同じ事務所の先輩に誘われたが、子供をだしに使ってやんわり断る。 「すみません、今日は帰りますね」 上司や周囲の人に挨拶をすませて、いそいそとロビーへ向かった。 ロビーに着くと、ザーザーと打ち付けるような音が聞こえる。 自動ドアのほうに視線を向けると、来るときには降っていなかった雨が、視界を白くするほどの勢いで降っていた。 げっ……すごい雨… 折りたたみ傘でも持ってくればよかった。 仕方なく、フロントでビニール傘を購入。 激しく打ち付ける雨の中、バス停まで歩いて行かなければならないと思うと、さっきまであがっていた気持ちも自然と落ちて足取りが重くなった。 よし、行くか。 一度天を仰いで、自分に向かってくる雨に睨みをきかせた後、重たい足を前へと進めた。
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