1,白い記憶

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どうして自分が前に進もうとしたのかもわからない。 この場に居座って誰かの助けを待てばいいのではないか。 だけれども、先ほど考えたようにここにいることが普通なのであれば助けはいらない。 もし仮に、助けを望んだところでこの入口も出口も無いこの場所に、誰が助けに来てくれるというのか。 どちらにせよこの先どうしていいかもわからないし、どれだけの時間この場所にいなくてはいけないのか。生きているか死んでいるかもわからない。 このままここにいたいという気持ちと、早くここから出たいという気持ちが交差する。ここから出たいと考えた瞬間に、この空間で一人だけであるということに恐怖を感じ始めた。 「誰か助けてよー?」 大きな声で叫んでも、空間に響くだけで何も変わらない。 そんな状態にやっぱり悲しくなって、大声で泣き始めた。 誰かが気がついてくれるようにと。こうやって自分を表現しないとこの空間に存在していることでさえ拒否されてしまうような気がして、やはり大声で泣いた。
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