1,白い記憶

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(私の何がわかるのだろう。私の気持ちも、私の今までの感情も記憶も、知るはずの無い人がわかりきったように言うのが苛立つ。) もっと言えば、今自分のことを自分が分かっていないのに、気がついてなかったことを指されたような、あの言いようのない胸苦しさが少女を襲ったことに苛立った。 「あなたに何がわかるの?」 少し怒ったような口調で言っても青年は嫌な顔一つすることが無かった。 「だって僕は君を知っているもの。君は覚えてないだろうけど。とにかく君はここにいちゃいけないんだ。僕と一緒に元に戻らなくちゃ。」 じっと青年を見てみても、思い出せない。そして気がついたことがある。彼は焦っている。 「何を焦っているの?」 少女がそう聞けば、青年は一瞬、そう一瞬だけ悲しそうな眼をした。 「あんまりここにいるのはよくないんだ。元に戻れなくなるから。」 そう言うと青年はじれったく動かない少女の腕をつかんだ。少女はそれを払うことをしようとしなかったが、それに従おうともしなかった。 少女にとって何が正解なのか分からなかったからだ。
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