782人が本棚に入れています
本棚に追加
─────────────
「──…冬馬、オムライスできたけど」
ダイニングテーブルに、サラダとスープ。
それから出来立てのオムライスを並べて。
ソファーでくつろいでいる冬馬にそう声をかければ、
「──ん…、わかったー……」
まのびたやる気のないような返事がかえってきた。
本当に大好物なのかな?
大好物なら、もっと食いつくと思ったんだけど。
そうじゃないのかな?と首を傾げた後、ふとあることを思い付いて。
「───ねえ、冬馬」
冬馬の背後に回り、背をもたれかけているソファの背に手をついて。
「オムライス、いる……?」
今度は私が、いたずらっ子のように。冬馬を見下ろしながら、そう言った。
瞬間、勢いよく冬馬がソファーから立ち上がって。
その早さに、目を瞬かせる。
冬馬の耳が赤い。
いや、顔も赤い。
「……っ食べよっか、オムライス」
冬馬が席につく。
さっきとはうってかわって、嬉しそうに、頬を赤らめながら。
子供みたい……
率直に私はそう思った。
「ふふっ、そうだね。食べよっか」
そういって、私は向かいの席についた。
「「いただきま―す」」
二人で手を合わせてオムライスに手をつける。
「──…うまっ」
向かいの席でオムライスを食べている冬馬が言葉をもらす。
思わず、自分の手を止めて彼を見つめてしまい。
「やっぱ、あきは料理上手だな。すごいおいしいよ」
「──っ、そう…よかった」
不意に呟かれた誉め言葉に、どきりと胸が反応して。
パッと顔をそらしてオムライスを口いっぱいにほうばった。
褒められなれていないから、恥ずかしい。
うつむいたまま、冬馬の顔が見えない。
───私は、自分が、ときどき嫌になる。
嫌いな奴に自分の料理を“おいしい”って言われて、うれしいって思った
素直に「ありがとう」って言えばいいのに。
─────素直になれない
そんな自分が嫌になる………
最初のコメントを投稿しよう!