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「ええ。おかげさまで、仲良くさせていただいていますよ。」
「そうか、それは良かった。」
嘘は嘘として成立した。
これで俺は形の無い不幸を手にしないで済む。
そんなふうに思って、俺は咲城学院高校中央棟の合併教室で、新人女教師の水嶋舞百の大人しい声に心を癒やしていた。
水嶋の声は幼少時代好きだった近所のお姉さんの声に似ている。
女特有の爽やかな声。
そこには計り知れない位の生徒に対する思いが込められていて、
この時間だけは落ちこんだ自分を忘れさせてくれる。
まるで女子たちが香水やアロマを好むように、俺はそれと似た感覚を覚える。
そして、二時限目は香椎の口語基礎。
一言で云えばド最悪嫌いな時間。
決してこの授業自体が嫌いなわけではないけれど、香椎と聞いただけで日々嫌なことばかりが一気に俺を取り巻きに来る。
ところが、何故か奴は他の生徒には好かれているらしく、
俺が"俺は香椎が嫌いなんだ。"と云った所で変わり者あつかいされてしまうのだった。
"なぜ香椎のようなろくでなしが好かれるのか"
そんなことまで追求しようとは思わないけれど。
ただどうしても嫌なのだ。
頭脳よりも身体を利用して解決しようとする、その"下半身終束精神"が。
だから今日も極力黒板を見ずに
聴覚を研ぎ澄ませながら、耳でノートを作成した。
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