ご挨拶は初めが肝心です?

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私の車の運転席に主任はまわり当然のようにそこに座る。 だから私も慌てて助手席に乗るとすぐに車は動き出した。 「あの、今日はありがとうございました」 「何故モモがお礼を言うんですか?」 主任は運転しているから前を向いたままで答える。 だって東京から来てるのにわざわざうちの実家まで来てもらうだなんて申し訳ないし。 主任だってそんな事をするために帰ってきてるわけじゃないのに。 「え、だって、主任の貴重な時間をつかわせてしまって……」 「今日は主任って、何度も言ってましたね?」 主任は前を向いたまま淡々として言う。 「え?いや、あの、それは……」 だって仕事の時みたいにメガネをかけて、パリッとスーツを着こなしているから余計…… なんていうか条件反射?みたいな? 「お母様にも怒られたでしょう?」 「…ハイ。……ソウデスケド」 「モモ?」 信号でちょうど止まって今度は、こちらを見て名前を呼ぶ。 「はいっ!」 「いつになったら普通に名前で呼んでくれるんですか?」 いつになったらも何も。 そんな風に平日モードの主任を見せられたら…無理なんですけど。 「…あのっ、休日モードだったら呼べるんですけど。そんな風にスーツ姿だと……」 フゥー あ、大きなため息。 なんかまた失敗しちゃったみたい。 そして信号が変わりまた前を向いて運転に集中する主任。 しばらくしてから主任は静かに話しだす。 「…さすがに恋人の家にご挨拶に行くのに普段の服装では無理ですから」 ごもっともです。 ていうか、恋人って響き。なんか…… 「だけど主任って呼ばれるたびにさすがに俺もへこむから」 へ?なんで主任がへこむの? 「…どう、して?」 「天ケ瀬さん、って恋人がいつまでも呼んでたらどうですか?」 「あ、」 主任にそう言われてから初めて気づいた。 なんだかとっても距離感がある。 特別なはずの恋人がそんな風に呼んだりしたら、私だったらへこむ所か不安になって考え込むかもしれない。 遠距離とはいえ、付き合ってから3カ月経つ。その間ずっと主任はそんな思いをしてたなんて…… 「あのっ、ごめん、なさい。そんなつもりじゃなくって……」 ただの条件反射なんです……とは言えなかった。
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