視覚のキオク

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「あの人、あの老舗ブランドの会社の跡取り」 「へ?そうなの?」 「うん、なんとなく、あれだろ?育ちがいい感じでてんだろ?」 「まぁそうだね」 育ちがいい感じ。 うん、それはさっきも思った通り漂ってくる感じがあった。 でもまさか、社長の息子とか思いもしなかった。 社長の息子だからとかじゃなくて、彼の持つ雰囲気そのすべてが私の心をとらえていた。 「社長夫人なんて狙ったって、無駄無駄」 「はは、そんなの狙ってなんていないって。ただなんとなく彼に興味があるだけ」 「興味があるだなんて言葉、おまえから久しぶりに聞いた気がするけどな?」 「そう、かな?」 そのとおりだ。 人に興味がナイわけじゃない。 けれど、執着なんてものもない。 それに彼とは直接言葉を交わしたわけでもない。 それでも彼の存在そのものが私の興味をそそる。 「ま、とりあえず飲めば?」 そう言って同僚がどんどん酒をすすめてくる。 彼の瞳の奥にちらりと見えた欲に目を瞑りその酒を飲み進めた。
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