嗅覚のキオク

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「匂い、かしら?」 「は?」 匂い。 香りとは言わずにわざと“匂い”と言った。 そんな私を不思議そうな顔で見ている彼。 「俺の香水?」 「いいえ、あなたの匂い」 クンクンと自分の腕の匂いを嗅ぐ彼。 そしてまるでわからないという顔をしてベッドへ座る。 「自分じゃ、わからないな…」 「そうでしょうね」 私だってうまく説明できない。 だけど確かにさっきまではその香りを放っていた。 じりじりと詰めてくる彼。 すべて洗い流したはずの欲をまた纏った瞳。 「もう一度、試してみる?」 最後ってさっき言ったばかり、なのに 「今日が最後なら、今日のうちは何度でもいいわけだよね?」 なにその屁理屈。 私が最後じゃないと言うまでスルつもり? 視界がまた暗くなる。 そして足元に彼の重みを感じるとシーツを少しずつ下にずらしてくる。 ボディソープの香りに混じってほのかに匂い立つ彼の香り。 「あ、」 この匂いが好きだ。 どうしても惹きつけられる。 理由なんてない。 ただ、好きなだけ。
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