触覚のキオク

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私はちょっとはすっぱな言い方をわざとした。 「じゃあ、今は彼氏は?」 「特定な人なんて、いないよ…いらないし」 「えーもう30じゃん、特定の人居ないってさすがにそれは」 彼女の言う事はもっともで、彼女より2つ年上の私は今29歳。 賞味期限はとっくに過ぎて、さらにもう崖っぷち。 三十路というその大台に乗ってしまえばあとは行き遅れというレッテルが張られるだけ。 「んーでも無駄なつきあうする時間もパワーももうないのよ」 「私も子育てでパワー全部持っていかれてるけどねー」 そう言って笑う彼女の化粧っ気のない顔はあの時よりもずっと輝いている。 結局いつまで経っても彼女には勝てない。 唯一彼女に優っているとすれば仕事のキャリアだけ。 そんなの彼女にしてみたらとっくに捨てたもの。 そこに全く魅力を感じていないからあっさりと捨てたんだろうから。 「でもさー、すごいよねーチーフだって?今」 つい今しがた想っていた仕事の事を聞かれ焦る。 だから何? チーフなんてちっとも魅力を感じてないくせに。 「あーうん、結局仕事が増えただけで全然……」 言葉を濁す。
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