触覚のキオク

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彼は私の手を繋ぎながら熱心に口説いてきている。 彼の手の質感は先ほどの胸のあたりの肌とは違い、少しザラザラしていた。 おかげで私は踏みとどまった。 結局彼と手を繋いだまま話をしていると物音が聞こえてきて…… 階段から彼女が顔をのぞかせた。 「どう、したの?」 不安げに瞳を震わせ彼女が聞いてきた。 そりゃそうよね。 さっきまで“仲良く”していた彼が急に居なくなったんだから。 だから私は、 「あ、彼が暑くないかって心配してくれて聞きに来てくれたの」 「…そう、」 まだ少し、疑っている風の彼女。 いや、確かにちょっとは興味があったけど。 さすがに私は友人と同じ相手とは……… 「私は大丈夫だから、戻って?」 できるだけさり気ない様子で彼を促し、階下へといくように言った。 その時の彼が彼女の今の旦那さんではない。 もしもその彼が旦那さんだったら私は絶対反対していた。
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