触覚のキオク

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「あの頃、《肌が合う》って言ったのは……」 隣で寝ている子供なんてまるでいないかのように急に顔つきが変わり、あの頃の彼女のそれに戻っていく。 化粧っけがないのに、目つきが変わっただけで彼女の纏う雰囲気はすべて変わった。 彼女は当時を思い出しながら言う。 「あの頃、私勘違いしてたの。 黒人の人ならだれでも肌が合うなんて思ってた。 けれど、今の旦那と知り合ってからハッキリと間違っていると気付いたの」 「間違っていた?」 「うん、そう。勘違いもいいとこ」 何が勘違いで 何が間違いだったのか 「一つだけ言っておくけれど、、 そう前置きをしてから彼女はつづけた。 「今でも黒人の肌の質感は嗜好として好きよ。 けど、何度だって触れたくなるのは心が彼を求めているから。 彼じゃなきゃ何度も触れたくはならない。 だから別に彼が何人(なにじん)だろうと関係ないの」 そう言いきった彼女は元のお母さんの顔に戻っていた。
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