触覚のキオク

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「何度も触れたいと思う人になんて出会った事ない、私。」 ポツリと私が呟けば、 「自分から心を開かなければ、ずっと上辺だけの付き合いしかできないと思うよ?」 心を開く。 今更そんな事 今までずっと自分を守るために閉ざしてきた。 そんな私が出来るはずない。 「ねぇ、目を閉じて。」 彼女の言葉に素直に目を閉じる。 目を閉じれば仕事が忙しくなって連絡が取りづらくなった元彼が浮かんできた。 正しくは別れたわけではないから、音信不通になっている彼。 「今、最初に浮かんできた人にその人に触れたいって思った?」 ドクンっと大きな音を立てて胸が騒ぐ。 彼の事を考えてこんな風に思った事は今までなかったのに。 「……ずっと会えないまま、音信不通なのよ」 いつの間にか彼女に彼との付き合いを話していた。 随分と年上の彼。 バツイチで私なんかじゃなくてもきっと楽しい時間を過ごしているであろう彼。 彼との関係に私は踏み込めないでいた。 踏み込んだら、私が今保っている生活がきっと破たんするから。
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