触覚のキオク

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玄関に入り今度は私の方から彼に手を伸ばした。 靴を履いたまま、背伸びをしてその首にしがみつくようにして彼に口付けた。 最初からその唇を貪る。 そんな私に答えるように彼は私の唇に軽く歯を立てた。 「あ、」 つい、漏れてしまった声に彼はしてやったりと言った顔。 「触れてって言ったんだから、自分からしたらズルイだろう?」 「だって……」 本当は私が触れたい。 会いたかった。 触れたかった。 こうして心ごと彼を感じたかった。 自分のくだらないプライドのせいで、彼にも辛い思いをさせてしまっていたのかもしれない。 「さっきまで友人と会っていたの」 「邪魔してしまったかな?」 「いいえ、その友人のおかげで私、今ここに来れているの」 少し不思議そうな顔をする彼に続けていった。 「ごめんなさい、ずっと会いたかった、ずっと触れたかった、ずっと…― 「全部言われたら困るよ、少しはこっちにも言わせて」 私の言葉を途中で遮った彼は頬に触れ、 「ずっと触れていたいんだ、いつだってこうやって」 彼を見れば熱に浮かされたようなそんな瞳。 「私も、あなたに触れていたい。触れられたい、いつも」
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