聴覚のキオク

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2度目に彼女に会ったのはまったくの偶然。 それは研究がひと段落つき、久しぶりに時間がとれたあの日。 地元の友達の開催した飲み会に顔を出した。 いつものように隅っこの席でチビチビと酒を飲んでいた俺。 そこにやってきたのは友人が高校時代から付き合っている彼女と… 「あ、きてたんだー」 「おー久しぶり」 友達の彼女に会ったのも久しぶり。 そしてあの時の彼女に会ったのも…… 「隣の……、ひさしぶり」 すぐに彼女だと気付いた。 出来ればもう一度一緒に飲みたいと思っていた彼女。 けれど彼女は全くそんな事がなかった様子。 キョトンとした彼女に少しばかり居心地の悪くなったオレは、意味もなくメガネをなおすふりをして下を向いた。 「ショックだなー。アドレスも交換したのに忘れられるなんて」 俺はわざと名前を呼び、思い出そうと必死な彼女を煽った。 本気で忘れてる。 自分から連絡もしてないんだし、忘れられて当然。だけどなんとなく癪に障る。 そして平常心を繕って、余裕に見えるように目の前の酒を飲んだ。
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