視覚のキオク

11/26

403人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ
「おつかれさまです」 エントランスで声をかけられたのはあの時の彼。 おつかれさま、とも、こんにちはとも言葉をかけるのをためらった。 だって私は彼には一度お茶を出したきりでそれ以来は全く接点もなく、合う事さえなかったのだから。 「あ、」 「すみません、急に声かけたりして」 「あ、いえ。」 「前にお会いした時にとても印象に残っていたのですっかり自分の中では知り合いのつもりでいました」 そう言って照れくさそうにする仕草もなんとも私の好みから外れない。 この人は私をどうしたいんだろう。 これ以上私を翻弄させている事に気づいて居るんだろうか? そこに同僚の彼が現れた。 そして、 「よ、これから飲みに行くんだけど、おまえも一緒に行く?」 あっさりとそんな事を言う彼の意図がわからなくて戸惑う。 この前、ともに共有した欲は何だったのか。 それに彼に興味がある私をどうしようと言うのか。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

403人が本棚に入れています
本棚に追加