視覚のキオク

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なんとなく日本語として入って来ない言葉を頭の中で流し、突然もたらされた彼との時間を楽しもうそう思いこもうとする。 「初めて会った時、君に見つめられて…」 見つめたわけじゃない。 ただその瞬間時間が止まってしまっただけ。 それを彼本人に説明するのはさすがに…… 「いえ、あの時。普通ならすみませんと皆さんは言うんです。けれど貴方はありがとうと言った。だからちょっと驚いて見てしまったんです」 そう言ったのは嘘ではない。 すみませんと言われるよりも、ありがとうと言われる事にどれだけ喜びを感じるか。 今の日本人はありがとうと言う言葉の大切さを忘れている気がする。 何かをしてもらったらありがとう。素直にその言葉が出てくることがとても嬉しかったから。 「そう、ですか。見つめられたと思ってこっちはドキドキしてたんですけどね?」 自嘲気味に笑う彼に、本当はそっちの方が正解なんだけどと心の中で言っている自分がいた。 今日は金曜と言う事もあって、これからバーに飲みに行こうという話になった。 そこでまず、今いた居酒屋を出る事にした。
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